金原ひとみ沼

金原ひとみ『デクリネゾン』(集英社文庫)

彼らはまるで言葉を、必要なことを伝えるための事務的なツールだと思っているかのようだ。言葉は霊的なもので、この世に存在するどんな事物よりも奥深くまで自分に侵入し支配し良くも悪くも己を変化させる恐ろしく、また尊い存在なのだ(後略)



配偶者がいても(若い)恋人をもち、その彼氏とセックスしまくり、それがばれて離婚する。それでも懲りずに再婚し、また新しい恋人をつくってはセックスしまくる。そしてまた離婚……。
ほとんど感情移入ができない女性が主人公の物語だけれども、文章の細部にまで神経が行き届いており読んでいて心地よく、不思議と読後感も悪くない。

また、ぼくが敬愛するエミール・シオランのニヒリズムやペシミズムが作品の根底にあるもの大きいのだとおもう。

いま、金原ひとみの小説にはまっている。

金原ひとみ『デクリネゾン』(集英社文庫)

お盆読書


佐伯一麦『水平と垂直』(新潮社)


お盆はこの物語をずっと読んでいた。
伏線がどうとか、伏線回収がどうとか、結末がどうとか、そういうことではなく、この文章を読んでいるその瞬間がただただ心地よく幸せだった。あと少しで読み終えてしまうことがさみしい。


この小説は、2024年3月24日~2025年3月21日の間、全352回にわたり「山形新聞」で連載されていたもの。
願わくば、新聞連載時に毎日少しずつこの文章を楽しみたかったな。


「オレは精神異常やない。道徳と善悪をわきまえんだけや」と彼は言った

桜木紫乃『異常に非ず』(新潮社)


桜木紫乃『異常に非ず』(新潮社)


梅川昭美が三菱銀行北畠支店に客と行員を人質に立て籠った事件の起こったのが、自分が15歳の冬のことだった。
学校から帰ってきたら、もう犯人も逮捕されているだろうと帰宅し、急いでテレビをつけると現場は膠着状態でまだ立て籠っている…。それを知り背筋に悪寒が走ったのを覚えている。

この猟奇的な事件は多感な時期の青年のこころに深く刻み込まれたようで、事件後に報道された写真の、銀行内にふてぶてしく居座る梅川の姿が、今でも脳裡に思い浮かぶことがある。


この物語に立ち戻ると、梅川(物語中では花川)の説得を乞われた母親が、大阪府警のヘリコプターが向かえに来たとき、ちょっと郵便局に行ってくると言い残し、その場を離れた。しかし2時間経っても戻ってくる気配がない。
関係者が最悪の事態を考え始めたとき、美容院で髪をセットしてきたと言い母親が戻ってきた。

このエピソードが、たぶんこの物語のキモなんだと思う。


約480頁を一気読みのとてもおもしろい物語だった。

三菱銀行北畠支店に居座る梅川昭美

今年の読書雑感

2024分厚い本

今年は分厚い本をたくさん読んだ。特に暑い盛りに腰を据えて長い小説を読んだことが印象に残っている。

おいしいコーヒーを飲んでおもしろい本が読めればそれだけで上機嫌です。来年もよい本がいっぱい読めたらいいな。

みなさま、どうぞよい年をお迎えください。

風通しのよい物語

柴崎友香『待ち遠しい』(毎日文庫)


柴崎友香『待ち遠しい』(毎日文庫)


夫を亡くしたばかりの63歳の女性の、「夫婦」というものについて語る下記のセリフが物語の序盤にある。

「そういうことじゃないのよ。好きとか、好きじゃないとか、それとはもっと違う ……。なんて言ったらいいのかな、夫婦って、恋愛ドラマみたいに盛り上がってるわけじゃなくて、ずっとこの人がいっしょにいるんだからやってくしかない、そのうちに、やっていくことが前提でなんでも考えるようになって…....…」

これを読んだ瞬間に、めちゃくちゃ強く共感し、一気にこの物語に入り込んでいけた。


柴崎さんが紡ぎだす物語は、どれも風通しがよく、読んでいて心地よい。

おすすめです!

新しい宝物

津村記久子『水車小屋のネネ』

津村記久子『水車小屋のネネ』(毎日新聞社)

とてもあたたかい物語だった。
167頁にある藤沢先生の言葉に、そのたった2行の言葉に感動し、この482頁の物語は傑作に違わないと確信する。
読み終えたとき、本がつぶれてしまうほどの力で、ぎゅっと抱きしめたくなる愛おしい物語だった。

津村さんの作品では、今まで『ポースケ』がいちばん好きだったけれど、ネネはそれを越える大切なものになった。
自分にとっての宝物がまたひとつ増えた。うれしい。

津村記久子『水車小屋のネネ』

久しぶりの一乗寺

出町柳で飲むまえに一乗寺まで足をのばして恵文社一乗寺店へ。
ずっと気になっていた『思い出す、書き残す―山田稔黒川創トークイベント記録』(恵文社一乗寺店発行)と、「十七時退勤社」という魅力的な名前の個人出版レーベルが発行する『製本と編集者』の冊子2冊を買う。
 久しぶりに行った恵文社の店内は、何冊もの本を大切そうに抱えた若い人がいっぱい居て、本が売れないと巷間で云われていることが、まるで嘘のように思えてしまうほどの盛況ぶり。
ぼくも書棚の間を回遊していたら、あっという間に2時間が経っていた。恐るべし恵文社
 

恵文社一乗寺店

『思い出す、書き残す』山田稔/黒川創

『製本と編集者』